大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和37年(ラ)628号 決定 1963年3月13日

主文

原決定を取消す。

破産者株式会社日本殖産に対する破産事件について抗告人の監査委員としての報酬を金三五万円と定める。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

よつて案ずるに、破産事件の監査委員の報酬は一般には当該職務の期間、繁閑、当該委員の右職務執行に費した労力の程度その他破産財団の資産の額などを考慮して決められるべきものであるが、その外に当該監査委員が監査事務の遂行に有益な専門的な知識経験を有し(例えば弁護士、会計士など)監査事務の遂行上他の監査委員に比して重要な役割を果したなどというような事情があればそれらの点も当然考慮に加えられるべきである。これを本件についてみるに本件記録から窺いえられる抗告人の職務の期間、右期間中管財人から監査委員に対し同意を求められた事件の件数及び破産財団の資産の額などのみからすれば、原審が抗告人について決定した報酬額が一般的な標準として必しも低きに失するものとは認められない。併しながら本件監査委員(但し昭和三四年八月以降)五名中抗告人を除くその余はすべて破産債権者の中から選出されたものであるのに対し、抗告人のみはかかる自己についての利害関係なしに選任されたものであること、また右五名中抗告人のみが法律の専門家なる弁護士であつて前記管財人から監査委員に同意を求められた事件のうち多くは法律問題ないし訴訟事件にかかるものであり、これらにおいて抗告人は右専門的知識及び経験に基いて重要な役割を果したであろうと認められることなどの諸事情を考慮するならば、結局原審が抗告人に対して決定した報酬の額は低きに失するものと認めざるをえなく、しかして右に述べたすべての事情を考慮するときは抗告人に対し与えられるべき報酬の額は金三五万円をもつて相当であると認める。

よつて原決定は不当であるからこれを取消し、新たに抗告人の報酬の額を右金額どおりに定めることとして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 板垣市太郎 裁判官 元岡道雄 渡部保夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例